私が国家安全保障局(NSC)の前身であった内閣安全保障室に外務省から課長級として出向していた1988年から1990年ごろは、まだシビリアンコントロールは健在だった。
すなわち、事実上の軍人である自衛隊制服組が日本の防衛政策に影響を与える発言をすれば、たちまち国会で追及され、国会審議がストップしたり、場合によっては自衛官幹部が更迭されたりした。
ところが、いつの間にかこのシビリアンコントロールは死語になり、特に安倍政権になり、制服組が背広組(文官)と対等になって外交や防衛政策論争に堂々と発言できるようになった。
そしていよいよ彼らの出番が来たのだ。
勘違い政治家である河野防衛相の突然の陸上イージス白紙撤回発言によって、怪我の功名なのか、渡りに船なのか、焼け太りなのか、どういう表現がぴったりくるかは知らないが、安倍首相が突然、あらたな防衛大綱をつくり直すと言い始めた。
それにともなって自衛隊の制服組幹部がどんどんメディアで発言し始めた。
驚いたことに現職自衛隊幹部が記者会見で、陸上イージスが白紙撤回されてもミサイル防衛の必要性はますます高まる、などとメディアで平気で語り始めた。
とんでもないことになってきたのだ。
本来ならば、そう激しく非難するところだが、今回ばかりは私は、がぜん面白くなってきたと大喜びだ。
なぜか。
彼らが発言すればするほど、防衛力を強化すべきだと主張することの自己矛盾が露呈するからだ。
きのう6月27日夕のTBSの報道特集で、香田洋二という元自衛艦隊司令官(海将)が出演して語っていた。
敵基地攻撃はやるなら徹底的にやらなければかえって危険だと。
なぜならば、それは敵の中枢を攻撃するわけだから、徹底的にやらないと反撃を食らってこちらがやられるからだと。
しかし、いまの自衛隊には、敵基地を徹底攻撃できる組織力も、情報収集能力も、装備も技術力も、士気も、なにもかも無い。
そんな現状で敵基地攻撃を行うことは自殺行為だと。
その時の香田海将の正確な表現は忘れたが、彼がいわんとするところはそういうことだ。
この発言は日本全国の国民が知っておかなくてはいけない発言である。
なにしろ、ついこの間まで海上自衛隊のトップにいて日本の防衛力の現状を一番よく知っている人の発言である。
この発言を論破できる専門家は今の日本では誰もいないはずだ。
その人物が、テレビの前で国民に向かって、日本は敵基地攻撃を出来ない国だと証言したのである。
もちろん、香田元海将が言いたいことは、だから日本も米国や中国並みにあらゆる面で防衛力を強化すべきだということなのだ。
しかし、日本がいまさらそんな事をやろうとすれば、いくら予算があっても足りない。
敵基地攻撃力を高める前に、日本と言う国が崩壊することになる。
どっちに転んでも、敵基地攻撃を可能にする防衛力の強化は、あり得ない政策なのだ。
野党は来るべき国会審議で、まっさきに6月27日夕に全国放映されたTBS報道特集の香田元海将の発言を取り上げるべきだ。
そして香田海将を国会に招致して証言させるべきだ。
俄然、おもしろくなってきた。
敵基地攻撃論争は、始まったとたんに終わるということである(了)
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