世の中の出来事は、その多くが偶然で起きる。
だからそれをあたかも意味あるかのごとく関連づけるのは間違いだ。
しかし、亡くなったブッシュ大統領が歴代の米国大統領の中でもひときわ中国との関係が深い親中国派の大統領だったことは知っていたほうがいい。
そのことをきょう12月6日の毎日新聞、「木語」で坂東賢治専門編集委員が次のように書いている。
歴代米国大統領の中で、父ブッシュは唯一人、中国に常駐した経験を持つ大統領だったと。
つまりブッシュ氏は1971年に中国が台湾に代って国連入りした際の国連大使であり、その後74-75年に国交正常化前の中国大使に当たる駐北京連絡所長を務めている。
その時、英国か仏の大使ポストを提示されたが、こう言ってあえて中国行きを選んだという。
「中国がいずれは世界的にも影響力を持つ強国となることは明白であり、いるべき場所だと考えた」と。
80年代には台湾派だったレーガン大統領の副大統領として中国との調整役をつとめ、88年の大統領選で勝利すると、就任直後に訪中したと。
引退後も20回以上訪中し、2008年北京五輪には米国選手団の名誉団長として息子のブッシュ大統領と訪中したと。
その時、ブッシュ家と親交を深めた楊潔篪氏が外相として出迎え、その楊潔篪氏が12月1日にアルゼンチンで開かれたトランプ・習近平首脳会談に同席し、「ブッシュ氏は生涯を通じて米中の友好関係に重要な貢献をした」とその死を悼んだと。
そして坂東氏は次のように締めくくっている。
「今の米中関係はハイテク技術や安全保障を含めた覇権争いの色彩が濃い。ブッシュ氏が体現したより良き時代は過ぎ去ったといえる」と。
そうだろうか。
坂東氏はあっさり、「ブッシュ家と親交を深めた楊潔篪氏」と書くだけで、その親交がどのようにして培われたかには一言も触れていない。
楊潔篪氏はまだ若い外交官であった時、北京連絡事務所長であるブッシュ氏との連絡を担う通訳官として中国政府に指名され育成された。
米国に留学した時にはブッシュ家に下宿している。
そして中国政府は楊潔篪氏を中国の在米国特命全権大使に任命し、外相を経て、いまでは外相より上位の外交担当国務委員(中共中央政治局委員)である。
これを要するに、中国政府は米国との関係を一手に引き受ける人材を政策的に育て上げ、米国外交に当たらせて来た。
米中関係が悪化しても、最悪にはならない。
改善に向かえば一気に改善する。
そういう関係を中国は米国との関係で意図的につくりあげて来たのだ。
日本にはそのような人材育成の政策はない。
官僚も政治家も、ひたすら対米従属一辺倒に終始し、その方針を忖度する者だけが出世して日米外交を担う仕組みになっている。
これでは、対米外交で日本が中国に勝てないはずだ。
米中関係は、悪化しても決定的な対立にはならず、改善すれば一気に改善する。
日本はそんな米中関係に振り回されるしかない。
ブッシュ氏の逝去は偶然であっても米中関係は偶然では起こらない。
安倍政権も坂東記者も、その事だけは知っておいた方がいいのである(了)
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