シンガポールでの東アジアサミットやパプアニューギニアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席した安倍首相がまもなく帰国する。
今度の安倍首相の外遊でニュースになったのは、やはりなんといってもプーチン大統領との首脳会談後に明らかにされた北方領土2島先行返還の合意だ。
しかし、その陰に隠れてほとんど報じられなかった日韓首脳の立ち話会談のほうに私は注目した。
私が外務省にいた時は、およそ立ち話首脳会談などと言う言葉はなかった。
いやしくも、日本の首相が首脳会談をする時は、事前に十分に準備され、外相などが同席する公式会談と相場が決まっていたからだ。
ところが安倍首相になってから立ち話首脳会談が頻繁に行われるようになった。
その最大の理由は、歴史認識問題で悪化した中国や韓国との首脳との会談で、苦肉の策として国際会議を利用した短時間の顔合わせが必要になったからだ。
「首脳会談をした」というアリバイ作りの立ち話会談だ。
私はそんな立ち話首脳会談を、ごまかしの首脳会談だと笑い飛ばして来た。
しかし、今度ばかりは違う。
笑い飛ばすにはあまりにも深刻な立ち話会談だったからだ。
何度も席を同じくし、話せる機会があったにもかかわらず、握手さえもしないほど冷え切った接触に終始した安倍首相は、本当にそれでよかったと思っているのだろうか。
そんな安倍首相に対し、さすがの文在寅大統領も、文大統領の方から歩み寄ることは出来なかったのだろう。
それは国内向けの顔ではなく本音だろう。
映像に映し出された文大統領の姿は、笑顔どころか、険悪とも思える衝撃的な表情だった。
ここまで日韓関係が悪化してしまったのだ。
戦後70年余りがたって、紆余曲折はあったが、常に関係改善に腐心して来た日本の対韓外交だった。
それをすべて安倍首相はぶち壊してしまったのだ。
2島返還先行で、これまでの北方領土交渉をぶち壊そうとしている安倍首相だが、北方領土問題の方は、歴史に名を残す可能性はある。
2島でも、返還されれば間違いなく成果であり、ましてや在日米軍を置かない事で米国を説得出来れば、あの「ダレスの恫喝」という呪縛を断ち切る事ができる。
しかし、日韓関係のぶち壊しは、いいことは何一つない。
その修復には時間をかけた多大な努力が必要になるだろう。
日韓両国の国民はもとより、日韓経済関係にも及ぶ戦後の日韓関係を、ひとりの首相がここまで悪化させてしまったのだ。
安倍外交の間違いの中でも一番深刻な間違いである。
それを象徴した今度の立ち話首脳会談だったのである(了)
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