まず、次の言葉を黙ってお読みいただきたい。
「新天皇は何をよりどころにして、その象徴的機能を果たす事ができるだろうか」
この問いかけは、2年後には確実に明仁天皇から皇位を継承されて新天皇に即位される皇太子が、いま心中で思っておられる事に違いない。
しかし、この言葉は、皇太子の言葉ではない。
いまから30年ほど前、皇太子の父である明仁天皇が、その父である昭和天皇から皇位を引き継がれた当時に、憲法学者の故佐藤功(さとう いさお、1915年 - 2006年)上智大学名誉教授が語った言葉であるという。
その事を、私は6月9日付の朝日新聞「憲法70年」という記事で知った。
故佐藤功教授は、戦後の憲法制定作業に法制局スタッフとして携わり、当時の憲法担当相を支える「三羽がらす」と呼ばれた一人だと朝日のその記事は我々に教えてくれている。
驚くべきことだ。
憲法制定時の当事者が、象徴天皇の機能について答えを見いだせなかったのだ。
朝日新聞のその記事はこう続けている。
戦前「現人神(あらひとがみ)」として崇敬の対象とされた昭和天皇と違い、新憲法のもとで初めて即位した新天皇は、これから国民とどのような関係を結び、「統合の象徴」の役割を担うのか、佐藤氏に限らず、多くの人が感じた不安であり、期待でもあったと。
驚くべき佐藤氏の言葉であり、それを解説した朝日新聞の記事である。
これを要するに、国民はもとより新憲法の制定作業に関わった当事者も政治家も有識者も、誰一人として、象徴天皇の務めが何であるかわからないまま、そしてそれを真剣に考える事無く、今日まで70年間を過ごして来たのだ。
明仁天皇こそが一人それを考え続け、実践してこられた。
そして、自分が考え、実践してきた事が正しかったと思うか、国民に呼び掛けられた。
それがあのお言葉だったのだ。
それにもかかわらず、安倍首相も有識者もメディアも国民も、誰一人としてその答えを出そうともせず、退位特例法を成立させて、その問いかけを皇太子に丸投げしてしまったのだ。
皇太子は外交関係150周年を祝うためデンマークを訪問されるに際し、6月13日に記者会見に臨まれた。
その時皇太子は、陛下から引き継ぐ象徴天皇の務めについて、「陛下のお気持ちを十分に踏まえ、全身全霊で取り組む」と決意を述べられた。
しかし、それを報じる各紙は、どれひとつ見ても。象徴天皇の務めについて語らない。
いや、語れないのだ。
明仁陛下があのお言葉で問いかけられた象徴天皇の務めについて、答えを求められていることをわかっていながら避けて通し、明仁天皇の苦悩をそのまま皇太子に押しつけてしまった安倍政権や与野党の政治家たちは、その無責任さを恥ずべきであると思う(了)
それでは、天木さんなら「象徴天皇の機能」についてどのような答えをなさいますか? それがなければ、単なる批判のための批判に過ぎないでしょう。