外務省元次官の谷内正太郎国家安全保障政策局長の退任に続いて、彼を補佐する兼原信克内閣官房副長官(外務担当)も交代する。
そして、その後任として安倍首相は林肇前駐ベルギー大使を起用する方向で最終調整に入った。
こうスクープ報道したのは、きのう9月22日の朝日新聞だった。
林氏は安倍第一次政権の時、安倍首相の秘書官をしていたこともあり、安倍首相はいよいよ側近外交を強めるつもりだ、そう朝日は書いた。
その通りだろう。
しかし、私はもっと重要な意味をこの人事に感じ取った。
谷内と兼原は、親分、子分の関係にあり、いわば外務省の本流とも言える対米従属派だ。
しかし林肇は違う。
彼が対米自立とは言わないが、少なくとも外務省の本流である日米同盟最優先ではない。
首相秘書官になったぐらいだから出世コースに乗っていた人物たに違いないが、駐ベルギー大使は上りのポストだ。
ただの優秀な外務官僚の一人に過ぎない。
その人物を抜擢したのだ。
これを要するに、安倍首相は自分の言いなりになりそうな外務官僚を外務担当の官房副長官補に任用し、官邸から外務省本流の対米従属一辺倒派を一新したのだ。
そう思っていたら、きょう9月23日の朝日が書いた。
谷内局長の後任は外務省から起用されると外務省は期待し、谷内氏本人もそれを期待していたと。
ところがそうならなかった背景には、安倍首相と外務省との間に、ロシア、中国、北朝鮮をめぐる路線対立があったのだと。
これを読んで私が真っ先に思い出したのは、北方領土問題をめぐる谷内発言だ。
かつてプーチン大統領が、北方領土に在日米軍基地を置かないと約束できるか、と、パトルシェフ国家安全保障会議書記を通じ谷内氏に打診した事があった。
この時谷内氏は、対米従属に凝り固まったパブロフの犬のように、それは無理だと即座にパトルシェフに答え、プーチン大統領を失望させたことがあった。
私がそれを当時の報道で知って、谷内は大きな間違いを犯したと思った。
「私に答えられるはずがない。そんな重要な問題は、プーチン大統領が安倍首相に直接聞くべきだ。そうすれば安倍首相は政治決断されるかもしれない」とでも、はぐらかすべきだったのだ。
私はこれがその後の北方領土交渉の行き詰まりの分岐点だったと考えている。
そして谷内正太郎の対米従属これだけででない。
一帯一路に反対したのも、拉致問題で非核化にこだわるのも、すべては米国の意向に従うものばかりだ。
これが安倍外交を行き詰まらせたのだ。
その事に気づいた安倍首相は、ますます元経産官僚の今井尚哉首相秘書官を重用し、ついに谷内氏を差し置いて外交を任せる事になる。
読者の中には、対米従属においては、安倍首相も谷内NSC局長も変わらないではないかという疑問を抱く者がいるかも知れない。
その答えは、外務省は対米従属だが安倍首相は対トランプ従属であるということだ。
対米従属である限り、誰が米国の大統領になっても対米従属は変わらない。
そんな外交に未来はない。
しかし対トランプ従属外交は違う。
トランプ大統領が従来の米国の外交以上に悪い外交を進めるようなら最悪だが、もしトランプ大統領がこれまでの米国外交の常識を否定し正しい外交を行うようになると、日本外交も展望が開ける。
対米従属外交ではいい事は何もないが、対トランプ外交では、ひょっとしたら誰もが想像できなかった外交がありうるということだ。
私は谷内氏を更迭した安倍首相の人事を敢えて歓迎する。
100%の対米従属より、1%の意外性に期待する(了)
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