御用学者という言葉がある。
その定義は様々だろうが、私の定義はこうだ。
真実を追求し、それを世の中に知らせるのが学者の本文なのに、権力側に身を置いて、権力側に有利な言説をもっともらしく発信し、権力側を擁護し、その見返りに地位や名声を得る学者、というものだ。
これから書く伊藤元重という経済学者は、北岡伸一という政治学者が政治・外交面の御用学者の筆頭格なら、まさしく経済面の御用学者の筆頭格である。
その伊藤元重教授が、きょう10月14日の産経新聞「日本の未来を考える」で、さきの日米貿易交渉について、「守り」の成果だったと、要旨次のように書いている。
いつもながら米国との2国間交渉は日本が譲るばかりという感じがする交渉だったと。
しかし、一方において牛肉などでTPP並みの市場アクセスを米国に認めて(つまりTPP加盟国に対する以上の譲歩を行わなかった)トランプ大統領を喜ばせ、この農業交渉の成果を利用して、自動車分野での保護主義的な政策の導入を回避できたと。
これこそ、「守り」の交渉の成果だと。
まさしく、安倍政権が自画自賛している事と同じだ。
代弁役をしているのだ。
しかし、国会でも追及されているように、明らかなウソがある。
まず、TPP並みだから譲歩ではない、というのがおかしい。
TPPに加盟していない米国に、なぜTPP並みの優遇措置を与えなくてはならないのか、という問題がある。
他のTPP加盟国の不満をどうなだめるのか、もし、不満を招かないようにするなら、それは米国に追加的優遇を与えるという事になる。
二つ目のごまかしは、自動車に関する保護主義的な動きを止めたという大嘘である。
そんなことは協定のどこにも書かれていない。
それどころか、米国政府は、関税引き下げどころか、追加的関税引上げまでも、その要求を留保している。
いつでも保護主義の動きを強めることができるのだ。
そもそも、米国との交渉はいつも日本が譲るばかりだと、自ら認めていながら成果があったという事自体が矛盾だ。
米国との交渉は譲歩しなければまとまらないことを白状している。
どこまで譲歩を少なくするか、それしかないのだ。
まさしく、不平等な日米安保体制を認めながら、それでも日米安保体制を続けるしかないという日本政府の立場そのものだ。
それを国民の前で語り続ける伊藤元重教授は、見事な御用経済学者である。
何もわからない読者は、立派な経歴を重ねた学者がそういうのだから、そういうことだろう、と思ってしまう。
まさしく北岡伸一教授が16年前に米国のイラク攻撃を支持するしかなかったと言った言葉と同じだ。
御用学者の役割がここにある(了)
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