ゴーン事件は、日産とルノーの主導権争いというセカンドステージに移った。
西川日産はこれからが大変だ。
なにしろ、ブルータス呼ばわりされてまでゴーンを追い出したのも、そもそもは日産の主導権を取り戻すためだったからだ。
これで主導権を取り戻せないなら、何のための大騒ぎだったかということになる。
しかも、これで主導権を取り戻せなかったら、ゴーンの逆種が勢いづく。
すでにゴーンはメディアにみずからの完全無罪を繰り返し主張し、日本の検察、司法の非民主性を世界に向けて言い立て始めた。
日産はこれからが大変だ。
もしその背後に安倍・菅暴政コンビが絡んでいたとすれば、もっと大変だ。
果たしてゴーン事件のセカンドステージはどのように展開していくのだろう。
しかし、私がここで書きたいのはその事ではない。
私がデトロイト総領事だった20年ほど前の出来事が今私の脳裏に鮮やかによみがえって来る。
ひょっとしてルノーと提携した選択が間違っていたのではないか。
あの時の私に託された伝言が、いま鮮やかによみがえってそう私に囁くのだ。
日産が巨額の負債を抱え、それを乗り切るための合併騒ぎが大詰めを迎えていた1999年、突如としてルノーとの提携話が発表された。
その時、本命であるダイムラー・クライスラーに断れたからルノーを選んだと報じられた。
しかし、日産の買収に熱心だったもう一づの会社があった。
それがジャック・ナッサー社長のフォードだ。
日産とクライスラーの電撃合併が報じられた直後、デトロイトの日本総領事だった私のところにナッサー社長から電話が入った。
電話口で血相変えて話すナッサー社長の言葉の要旨はこうだ。
クライスラーとの合併話を報道で知って驚いた。我々のオファーに対する何の返答もないまま突然クライスラーと合意したというのはあまりもに非礼だ。日本人は仁義を重んじるはずではなかったのか。しかし、私は塙社長を責めるつもりはない。おそらくそれなりの理由があったのだろう。しかしフォードは今でも日産に関心があり、日産を立て直す自信と戦略がある。この事を塙社長に伝えてほしい。塙社長の翻意を期待する。
この電話を受けた私は、さっそくその伝言を極秘の電報で伝え、こう念を押した。
この伝言を直ちに外務省幹部から通産省(現経済産業省)幹部に伝え、返答ぶりを大至急いただきたいと。
自動車業界を動かすのは通産省だ。
外務省はメッセンジャー役でしかない。
しかし、この場合のメッセンジャー役は極めて重要だ。
だからこの伝言は外務省の幹部から通産省の幹部に直接伝えて塙社長に必ず伝わるようにし、そして大至急返事をもらう必要がある。
ところが外務省からはなしのつぶてである。
いくら督促しても返事のないまま日産とルソーの提携話は決定した。
ジャック・ナッサーの伝言は幻の伝言に終わったのだ。
私はジャック・ナッソーを失望させるだけの、本国政府に何の影響力もない無能な日本総領事となったのだ。
後で知ったのだが塙社長はにゴーンに入れ込んでいたらしい。
いまから思うと、しかし、その判断は正しかったのだろうか。
もちろん私には分からない。
ちなみにジャック・ナッサーもまたオーストラリアに移住したレバノン人である(了)
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