今度の組閣人事で私が注目したのは官邸官僚の人事交代だ。
その中でも、国家安全保障局長が、元外務次官である谷内正太郎氏から警察官僚の北村内閣情報官に交代したことだ。
すでにこの人事情報は報道済みだったが、9月11日付で確定した。
メディアはこの人事について、警察官僚がますます安倍政権を支えることになり危険だとか、警察官僚に外交・安全保障政策を任せられるのか、といった、北村氏の人事ばかりを否定的に報じているが、これは的外れだ。
安倍首相を支えてきた最強の警察官僚は、北村氏よりはるかに先輩の杉田和博官房副長官であり、彼は続投だ。
安倍政権はとっくに警察国家政権であり、今度の人事で特に危険になるわけではない。
外交・安全保障政策は安倍首相がみずから決定し、命じてきた。だから誰が国家安全保障局長になっても変わらない。
メディアが報じるべきは、初代局長として7年近くも安倍外交を指南して来た谷内正太郎氏のことなのだ。
ここまで安倍外交の司令塔を務めてきた谷内正太郎氏だ。
その功罪は大きい。
それを検証すべきなのだ。
同期の外務官僚だった私から言わせれば、谷内氏の「功」は何ひとつない。
それはそうだろう。
安倍外交の実績は皆無だからだ。
その安倍外交の司令塔だった谷内氏の「功」がないのは明らかだ。
その一方で谷内氏の「罪」は大きい。
その「罪」の中の一番大きな「罪」は、安倍首相によって潰された外務省組織を何一つ防げなかったことだ。
極めつけは、国家安全保障局長のポストを外務省OBに引き継げなかったことだ。
国家安全保障局の初代局長を安倍首相から乞われて引き受け、7年近くも務めて来たにもかかわらず、その後任者を外務省から出せなかったことは、官僚の掟から考えれば、あり得ないことだ。
よほど安倍首相との関係が悪化したのか、あるいは安倍首相の言なりになってきたのか、そのいずれかだ。
外務省はさぞかし衝撃を受けたに違いない。
どこかのメディアがそのあたりの内情を報道してくれないものか。
そう思っていたら、きょう発売の週刊文春(9月19日号)が教えてくれた。
外務省は当然のように後任を外務省から出そうと考え、人選も次官を経て駐米大使をつとめた佐々江賢一郎氏を考えていたという。
外務省は組織をあげてそれを実現しようとしていたという。
北村氏の抜擢を知ってからも、「北村氏がトップになれば外務省は誰もついていかない」と、抵抗をこころみたという。
しかし、安倍首相の決意が揺るがないとみるや、それを受け入れるしかなかったというのだ。
ここまで外務省が反対していたにもかかわらず、肝心の谷内国家安全保障局長の言動がどこにも出て来ない。
もし、谷内氏が、「後任者を他省庁から持ってくるなら、私の首を切ってからにしてください」と体を張って反対していたなら、安倍首相はあるいは、その言葉を聞かざるをえなかったかもしれない。
谷内氏はそこまでして抵抗をしなかったということだ。
これでは、安倍外交が行き詰まるはずだ。
谷内氏は、安倍外交の無茶苦茶を、その職を賭してまで、咎めようとしなかったのである。
その結果、外務省という組織は崩壊し、これまでの外務省では考えられなかった外交がどんどんと加速してしまったのだ。
もちろん、日韓関係の悪化もその一つである。
外務省という組織を破壊した安倍首相と、それを阻止できなかった谷内の罪は大きい。
それを教えてくれた週刊文春の記事である。
ちなみに、組閣を報じるテレビが、谷内正太郎氏は国家安全保障局を辞した後も、内閣特別顧問として安倍政権をささえるという。
外務省という組織も、日本の外交も、自分の保身のためには、知ったこっちゃあない、というわけである(了)
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