文在寅大統領がバチカンを訪問し、金正恩委員長からの訪朝要請を伝えたところ、フランシスコ法王は前向きな姿勢を示したという。
このニュースを知って、私の頭に様々な思いが駆け巡った。
ひとつは金正恩委員長の和平外交攻勢だ。
独裁政権にとっては人民の心をとらえる宗教は邪魔なはずだ。
それにもかかわらず、このタイミングでローマ法王を招待する。
平和外交に舵を切って国際社会の仲間入りをしたいのだ。
もちろん米国に対し、非核化の意思は本物である事をアピールする狙いがある。
二つは文在寅大統領のメッセンジャー外交だ。
ここまで金正恩委員長のために代行外交をしている。
文在寅大統領の南北融和の思いは本物だ。
そしてフランシスコ法王の平和に対する強い思いである。
法王はこう文在寅大統領に応えたという。
あなたの伝達だけでも十分だが、公式な招待状があってもいいと。
まだ北朝鮮の非核化が実現していない段階で、ここまで訪朝に前向きとは驚きだ。
明らかに米朝首脳会談の成功を願って、北朝鮮を励まそうとしているのだ。
フランシスコ法王の平和に対する思いは本物だ。
それらの思いの中で、私が一番強く思ったのは、フランシスコ法王の訪日は、いまどういう状況にあるのかということだ。
法王の訪日がメディアで取り上げられてから久しい。
しかし、その後ぷっつりと報道が途絶えた。
フランシスコ法王が、「焼き場に立つ少年」(筆者註:米国の従軍カメラマンである故ジョー・オダネル氏が撮影した、原爆投下直後の長崎で、亡くなった幼子を背負って焼き場で順番を待っている少年の姿を映した写真)の写真を見て感動し、新年の挨拶状と共のその写真を世界に配布したというニュースが流れたのは今年のはじめだった。
そのニュースで私はフランシスコ法王の、平和、非核を願う強い思いを知った。
だから、法王の訪日を歓迎し、出来れば同じく平和を願う今上天皇の在位のうちに、つまり来年4月までに、訪日してもらいたいと願っていた。
そして、過日、バチカン大使館を訪れる機会があった時、バチカン大使にローマ法王の来日予定について尋ねてみた。
その時バチカン大使は、明らかに狼狽した表情を見せて、その件については、私は何も承知していないと、話をそらした。
私は自らの大使の経験から、このバチカン大使の動揺を見て直感した。
ローマ法王の訪日案件は、バチカン法王庁と日本政府の間の微妙な外交問題となっているに違いないと。
はたして、ローマ法王の訪日が遅れている理由はどこにあるのだろう。
平和を望むローマ法王が広島、長崎の日本を訪れたいと思ってるのは間違いない。
にもかかわらず法王の訪日が遅れている理由は、安倍首相の日本を訪れることに法王のためらいがあるのか。
それとも安倍首相の方が、あえて今上天皇の退位の後まで、法王の訪日を遅らせたいと思っているのか。
いずれにしても、ローマ法王が訪日より先に訪朝するような事があっては、憲法9条を誇る日本にとって残念だ。
今上天皇もまた、ローマ法王の訪朝のニュースを残念な思いで聞かれたのではないだろうか。
ローマ法王の訪日はいまどういう状況になっているのだろう。
取材して、報道してくれるメディアが出て来ないものだろうか(了)
Comment On Facebook